製造業中小企業におけるHubSpot導入事例~問い合わせ対応の効率化

目次
使用HubSpot機能
Service Hub(チケットシステム、コンタクト共有受信トレイ、ナレッジベース、チャットボット)、Marketing Hub(ワークフローによる担当割り当て、自動返信)、Sales Hub(スニペット・テンプレート、チャット対応)など。
導入前の課題
お客様からの問い合わせ対応に多くの時間が割かれ、対応漏れや属人化も発生していました。製造業BtoBでは、ウェブサイトの問い合わせフォームや電話経由で技術的な質問や見積依頼が来ます。導入前は、問い合わせメールが営業担当者個人宛てに届き、その人が不在だと返信が遅れる、といったケースがありました。またマーケ部門が一旦内容を確認してから担当営業に転送するフローだったため、内部での振り分けに時間がかかる問題がありました。結果として、お客様をお待たせしたり、最悪問い合わせが放置されるミスも起きていました。さらに対応履歴が個人のメールボックスに閉じてしまい、チームで共有されないため属人化が進んでいました。
導入内容と設定概要
HubSpot導入後はService Hubの機能も活用して、問い合わせ対応フローを整備・自動化しました。その概要は以下の通りです。
・共有受信トレイの活用
HubSpot Service Hubのコンタクト受信トレイ機能を使い、問い合わせフォーム経由のメールやチャットを一元管理しました。具体的には、自社サイトの問い合わせフォームをHubSpotフォームに置き換え、送信先を共有受信トレイ(例えばsupport@会社.com)に設定します。こうすることで、問い合わせが入るとチーム全員が見られる受信箱にスレッドが作成されます。担当者はそのスレッドを自分に割り当てて返信しますが、他のメンバーも内容を閲覧・フォロー可能です。これにより**「担当者しか分からない」属人化が解消**され、誰が対応中かも一目瞭然になります。
・ケットシステムの導入
問い合わせごとにHubSpotの**チケット(問い合わせ案件)を自動作成し、進捗管理を始めました。問い合わせフォーム送信をトリガーにチケットを開く設定が可能で、各チケットには優先度やステータス(新規・対応中・完了)を付与します。例えば「技術質問」「見積依頼」などカテゴリ分けもし、緊急度に応じてSLA(初回返信何時間以内など)**も設定しました。中小企業でもシンプルなチケットパイプラインを作ることで、対応漏れなくクローズできる体制ができます。
・自動振り分けと通知
マーケ経由で手動転送していた振り分け作業を、HubSpotのワークフローで自動化しました。問い合わせフォームに「お問い合わせ種別」や「地域」といった選択項目を追加し、それに応じて担当者に自動割り当てするルールを設定しました(例えば「技術的な質問→技術担当Aさん」「見積依頼→営業マネージャーBさん」など)。HubSpotワークフローの「オーナー割り当て」アクションや「チケット割り当て」アクションを用い、さらに担当者へはリアルタイム通知(メールまたは携帯アプリ通知)を飛ばします。デクセリアルズ社では、このMA(Marketing Hub)のワークフロー導入により問い合わせ振り分けのステップを6分の1に簡略化することに成功しました。誰に振るかを考える手間がなくなり、自動で正しく配分されます。
・自動返信・ボット
ユーザーがフォーム送信した際、即時に自動返信メールを返すようにしました。「お問い合わせありがとうございます。ただいま受付いたしました。通常1営業日以内に回答いたします。」等の内容で、問い合わせが正常に届いた安心感を与えます。これはHubSpotのフォーム設定で簡単に実装できます。また営業時間外の対応強化として、チャットボットも導入検討しました。Service Hubのボット機能で、サイト上にチャットを表示し、よくある質問に自動応答させたり、担当者不在時に問い合わせ内容と連絡先を預かるフローを設定できます。これにより24時間体制で一次対応可能となり、お客様を待たせません。チャットボットで取得した情報はそのままコンタクトやチケットに記録され、後続対応に引き継がれます。
・対応テンプレート・ナレッジベース
よくある問い合わせには回答テンプレートを用意しました。HubSpotのスニペット(定型文)やテンプレート機能を使い、問い合わせ内容に応じた回答例を登録しておきます。例えば「カタログ送付希望」には送付案内の定型文+担当者情報をすぐ呼び出せるようにし、数クリックで返信完了できるようにしました。加えて、社内の技術情報を蓄積するナレッジベースも整備し始めました。Service Hubのナレッジベース機能でFAQ記事を作成し、顧客が自己解決できる記事を公開します。これによって問い合わせ件数そのものを削減する効果も狙えます。問い合わせフォーム送信前によくある質問へのリンクを表示し、自己解決率を高める工夫も取り入れました。
改善された成果・KPI
こうした施策により、 問い合わせ対応のスピードと効率が飛躍的に向上 しました。まず振り分け作業の自動化で内部処理時間が大幅短縮され、顧客への初動レスポンスが早くなりました。デクセリアルズ社では問い合わせ対応フローの工数が6分の1に圧縮され、お客様をお待たせする時間が劇的に短縮できたと報告されています。実際、マーケティング部門の工数削減と営業から顧客への返信までのタイムラグ短縮を同時に実現しています。これにより顧客満足度(返信の速さに対する評価)が向上し、信頼構築にもつながりました。
また対応漏れゼロを達成し、問い合わせ完了率100%を維持できるようになりました(全チケットをクローズする運用の定着)。さらにチーム全員がHubSpot上で顧客対応状況を把握できるため、急な担当者不在時も他メンバーが引き継いで迅速に対応継続できています。属人化が解消したことで、人員が少ない中でも安定したカスタマーサービス提供が可能になりました。定型対応の効率化により、担当者1人あたりがこなせる問い合わせ件数も増え、対応生産性が向上しています(具体的なKPI例: 1日あたり対応件数の増加や平均初回応答時間の短縮など)。
加えて、問い合わせ内容と対応履歴がすべてCRMに蓄積されるため、マーケティングや営業活動にも活用できています。例えば過去に問い合わせ対応した内容を踏まえて営業提案したり、よくある質問をマーケティングコンテンツとして発信するなど、部門間のデータ活用が進んだ点も成果と言えます。部門横断で顧客情報を共有しやすくなり、マーケ・営業・サポートの連携強化にも寄与しました。
再現時の具体的手順と注意点
中小企業で問い合わせ対応を効率化するには、以下の手順を踏むと良いでしょう。
【1】現状フローの洗い出し
問い合わせ受付から回答までの現状フローを図に書き出します。誰がどのステップで関与し、どこに時間がかかっているかを整理します。例えば「フォーム受付→マーケ担当がメール確認→担当営業へ転送→営業回答→マーケ経由で返信」などといった流れです。この中でボトルネック(例えばマーケ担当の確認待ち)を特定します。
【2】HubSpotへの統合
すべての問い合わせをHubSpotで受けるように統一します。フォームはHubSpotフォームに統合し、電話問い合わせは極力フォーム誘導(「メールでお問い合わせください」)に変えるなどして、情報がHubSpot上に残るようにします。どうしても電話受付する場合は、受けた社員が手動でHubSpotに通話記録やメモを登録する運用を決めます。
【3】チームインボックス設定
HubSpotの設定で受信トレイを作成し、会社の問い合わせ用メールアドレスを接続します。これによりそのアドレス宛のメールがHubSpot上で見られるようになります。同時に、問い合わせフォームの送信通知先をこのアドレスに変更し、フォーム送信内容がインボックスにスレッド生成されるようにします。権限管理も行い、必要なスタッフだけがこのインボックスを閲覧できるよう調整します。
【4】チケット運用開始
Service Hubのチケットパイプラインを1つ用意し(「サポート案件」など)、フォーム送信時にチケット作成するワークフローを設定します。小規模ならステージは「新規」「対応中」「完了」だけでも十分です。問い合わせ時に自動でチケットが「新規」ででき、担当者が対応中は「対応中」、返信完了したら「完了」にする、といった運用ルールを定めチームに周知します。週次で未完了チケットを全て確認する仕組みを作れば、放置を防げます。
【5】振り分け自動化
問い合わせフォームに「お問い合わせ内容カテゴリ」をプルダウンで追加し、その値に応じてワークフローで担当者(またはチーム)を割り当てます。担当者数が少なければ単純に全問い合わせを1人が見るでも構いませんが、分業できる場合はルール化します。割り当てられた担当者に通知メールが行くようにも設定します。
【6】テンプレート作成
過去の問い合わせ返信メールを参考に、よくあるパターンの回答テンプレートをHubSpotに登録します。例えば「製品カタログ送付の案内文」「技術サポート依頼への一次回答文」などです。社内で文面チェック・承認を取り、口調やフォーマル度合いも統一します。これをスニペットやテンプレートとして営業・サポートメンバー全員が使えるようにします。
【7】ナレッジベース構築(必要に応じて)
リソースに余裕があれば、FAQを整理してHubSpotナレッジベースに記事化します。例えば「製品の仕様は〇〇です」「納期は通常△週間です」等、問い合わせが多い質問への回答をまとめます。これをウェブサイトの「よくある質問」ページとして公開し、お客様が問い合わせ前に参照できるようにします。チャットボットを使う場合は、ナレッジベース記事を参照して回答するよう設定可能なので、用意しておくと自動応答の精度が上がります。